構想10年、最初に投稿してから8年、ついにアクセプトされました。
併せて、13年強の研究室歴の76本の研究論文(論文[1]-[76])のうちの主要成果の1つに選定しました。
以下、論文紹介ページより抜粋。
XII. [76] K. Okubo and K. Umeno, Chaos (2025) 出版予定。
アイデアが生まれた時期と場所: 2015年-2020年。京都大学吉田キャンパス
背景:Boltzmann, Zermelo, Gibbs and Gallavotti 以来のNewton力学などの時間反転対称性を持つ力学系の”緩和”が何故起こるのかを示すのは統計力学創始の時点からの大問題であった。Boltzmannは分子混沌仮説を仮定してこの問題を回避した。またSinaiのビリヤードなどの特殊な系の運動軌跡(負の曲率をもつ多様体上の測地線)は、混合性が証明されていたが、ビリヤードというのは世界を記述できる訳ではなく、一般の運動エネルギーとポテンシャル関数で書かれる物理系(Symplecticな測度保存系)で時間反転対称性を持つ力学系で”緩和”を示すアナソフ性(混合性)が示されたものはなかった。
内容: Boltzmann, Zermelo, Gibbs and Gallavotti 以来の時間反転対称系の”緩和”をポテンシャル関数𝑈がlog|cos𝑥|タイプの力学系のアナソフ性を証明することで初めて証明。 本2025年公表論文は、大久保健一君(2020年博士課程修了、現在公立諏訪東京理科大学講師)の博士論文の一章となっている。
経緯: 最初の構想は2015年頃。構想から10年当時はtangent写像として日本応用数理学会に発表していた。その元のアイデアはtangent関数の加法公式でコーシー分布を持つ可解カオスを構成することがわかっていたが(K. Umeno, Phys. Rev. E(1998))、そのシンプレクティック版(一言でいうとハミルトニアン(エネルギー関数)を持つ物理系)を大久保君と一緒に作ろうと2015年頃、毎日の様に議論していた。その結果、運動量のキックが、tan𝜃となる様なハミルトン力学系(シンプレクティック写像)は2015年頃には構成し、超拡散が起こることなどの数値計算を発表していた。その後、時間反転対称性を持つSymplectic 写像の形にするアイデア(梅野)を経て、時間反転対称性を持つSymplectic写像(2次のLeep -Frog Integrator形式)にして(そうでなければ時間反転対称性を持つ力学系の緩和の問題にならない。梅野の指導教員だった鈴木増雄と一緒に、学生時代、高次Symplectic Integratorによる非可積分系(Yang-Mills系)の計算をしていたことが活きた(そうでなければ2次のSymplectic 積分にして時間反転対称系を作るというアイデアが生まれず、今までの論者(田崎等)と同じ問題(時間反転対称性を持たない系の緩和で時間の矢を論じていた)にぶち当たっていただろう。K. Umeno and M. Suzuki, Symplectic and Intermittent behavior of Hamiltonian Flow, Physics Letters A(1993))、大久保君が同系のアナソフ性の条件を証明した。その後、アナソフ性の証明の数学的なギャップを少しずつ埋めていった。そのオリジナリティから絶対の自信を持ってまず2017年頃Chaosに投稿。Reject。次にNonlinearityに投稿。Reject。その次にPhysica Dに投稿。1年くらいして査読者が見つからない(判定不能)と返事が来る。悔しさと本物の時間の矢を噛み締めつつ、エルゴード理論の数学者にも論文の内容をみてもらい(広島大学での研究会など)、数学的なところ(Anosov性の証明)が問題ないことを確認し、Chaosに再投稿。2025年5月25日にAcceptの連絡。時間の矢の証明という構想から10年、最初の投稿から8年を経てついにAcceptされ、ついに2025年6月に正式に時間の矢論文が出版されることとなる。
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